エリアの特性を魅力に変える、建売住宅の建築ブランディング 業界の動向と計画エリアを分析し、強みと弱みを把握 横浜市で建売会社を営む中小企業から、建売住宅の設計を中心とした事業プロデュースの依頼。 計画予定地は高級住宅地としてのイメージが強い神奈川県横浜市本牧エリアでした。総人口3,731,096人(H28)、市としては全国1位の人口を誇る横浜市。建売住宅は平均して供給されており、今後も安定した供給が見込めます。 そのような状況の中でこれまで建売住宅を供給してきた企業がさらなる事業拡大を達成するため私たちはまず、企業と計画予定地が属するエリアの分析を行っていきました。 エリアと企業の強み 横浜市は人口が増加傾向にあり、新規転入者の年齢層は20〜34歳が多い市です。特にこの建売プロジェクトの計画地は、高級住宅街のイメージが強い神奈川県横浜市の本牧エリアです。 競合他社は建物の性能や価格、敷地の立地条件などにフォーカスしたセールスを行なったものが多く見受けられました。私たちはこのような状況を踏まえながら、エリアと企業の二つの側面を中心に建売事業の強みについてSWOT分析を行い検討していきました。 【SWOT分析】 <強み>▽内的要因・社歴が長く信用がある・下請け会社との密接な関係がある・土地の仕入れができる・不動産部門がある・企業イメージがまだついていない ▽外的要因・高級住宅街のイメージがあり、教育施設などの都市生活機能が充実している・横浜市にはデザインされた住宅は少ない(デザイナー風はある)。 ・エリア内で競合他社が供給している建売住宅は、同じポジションの範囲内でしか差異がない <弱み>▽内的要因・施工実績が少ない・設備仕様の不整備 ・管理仕様の不整備 ・営業社員がいない、経験不足 ・設計社員が少ない、経験不足 ▽外的要因・坂道が多く、駅から遠い ・少子高齢化 ・リフォーム市場の拡大・中古市場の拡大 ・土地の仕入れが安定しない 建売住宅が抱える課題分析、市場動向調査 一般的に建売住宅というと、間取りの自由度が少なく、デザインが洗練されたものが少ないイメージです。しかし、デザインに特化させ過ぎてしまうと消費者本位ではない特殊解の住みづらい住宅となってしまい住み手が見つからない状況に陥ってしまうケースもあります。 さらにほとんどの建売会社は自社での客付けを可能とするセールスモデルを持っていないため客付の為のコストが発生していることなどが調査を通して見えてきました。 市場動向としては、2011年以降の分譲住宅着工数がほぼ横ばいであり、今後も定量的な需要が見込めます。特に分譲住宅の平均敷地面積と延べ床面積は徐々に減少している状況となっています。 これは、住宅購入者の住宅取得能力、つまり住宅にかけることができる金額が低くなっていることそのため住宅各社が面積を小さくして工事単価を下げていることに起因しています。 私たちはこのような分析をもとに中小の建売事業が目指すべきポジションを探っていきました。 建売プロジェクトが目指すポジションの策定。 「家を売る」から「エリアを売る」という消費者の住宅購入フローに訴求するポジションへ 住宅購入者の行動フローが、「まずは住みたいエリアを探す」という行動から始まる傾向が強いことに着目しエリアに特化したセールス戦略を計画していきました。 特にエリア特化型のセールス戦略を行っている競合が少ないことから、ニッチなポジションではありますが中小の工務店のポジショニングとしては理想的だと考えられます。 私たちはこのことを踏まえ、「建売住宅と一緒にエリアの魅力も消費者に届ける」という新しい建売住宅のポジションを策定していきました。 戸建住宅にも緩やかなつながりと開放感を。建築設計の基本方針の策定。 私たちは、ターゲットがコミュニケーションを積極的に取り、独自のライフスタイルやデザインに敏感な若い年齢層であるということを踏まえ、建築設計の基本方針を計画していきました。 私たちが目指したのは、一般的な建売住宅とは少しだけポジションをずらした建築です。 新生活に対する不安を解消できるようなコミュニティへの帰属意識敷地を微視的に捉えた各棟で異なる暮らしが展開するような差異のある間取り購入者が安心して生活できるようなプライバシー性能と外部空間との繋がりを感じる開放感の両立などといった多様なニーズに応えられるようにデザインされた新しい建売住宅を目指していきました。 エリアNo. 1の建売会社になるために 事業や建築設計を新しくするにあたり、新しい方針に最適なオペレーションモデルの構築も重要になります。 私たちは事業の基本方針の策定と同時に、企業とのディスカッションを行い業務フロー、建売会社としての企業ブランディング、人材の採用・育成に関しても企画を行っていきました。 私たちはこれらのことを踏まえ、企業のビジネスに最適なデザインの提案を行っていきました。 暮らしにストーリーを。家と一緒にエリアも提供する建売会社の提案 エリアから暮らしまでを「見える化」した、ヴィジュアルデザインを提案 私たちは住みたいエリアから探すという消費者の行動モデルに訴求するためにエリアから暮らしまでが一つのストーリーとして見えるようなヴィジュアルデザインを提案しました。 競合他社が特に手をかけない、アクセスマップを地域の特徴を反映したグラフィカルなマップとしてデザインしエリアの魅力がよりイメージしやすいデザインを提案しました。 計画エリアは坂が多いことで有名なエリアであり、一般的に坂の多いエリアは利便性の観点から選ばれにくい傾向にありますが、それぞれの坂の名称をマップにいれながら傾斜のある場所でしか出会えない風景イメージと暮らしの様子をコンセプトテキストとして表現することで魅力の一つとして還元し、競合他社との差別化を行いました。 私たちはこのように、ターゲットである若い世代向けに建売住宅のブランドイメージやヴィジュアルイメージを一新した提案を行いました。 一棟ずつ異なった間取りを持つ、多様なデザインの建売住宅 生産効率の観点から、画一的な間取りとなりがちな建売住宅では同じ位置や向きに窓が来ることも少なくなくプライバシーが保たれにくくなる場合があります。さらに、独自のライフスタイルを求めるターゲットのニーズに対して応えることも難しくなりがちです。 私たちはこれらの課題を解決する為、一棟ずつ敷地の条件を考慮してお互いの棟が程よいプライバシーを保てるような間取りを持った建売住宅をデザインし提案しました。 これにより、プライバシーが保たれた居心地のいい外部空間を確保した間取りを実現し各世帯で異なる暮らしが展開されるデザインとなり、消費者に家を選ぶ楽しさを提供することが可能となります。 各棟の敷地はシェアグリーンで緩やかに繋げ、帰属意識が持てるような外溝デザインとしながら各棟で住宅の仕様を統一しました。 中心から展開する集約化されたプランニングで、室数と居室面積をしっかりと確保し顧客満足度とコストの両立が可能なデザインとしました。 新たな取り組みとしての建売事業が、企業の試金石に。 様々な建売会社がある中で、どのように差別化を図っていくのかというのは珍しくない課題です。特に私たちは急激に変化する社会やニーズに応え、消費者に選ばれる建売住宅とするためにはデザインとビジネスの両側面からのアプローチが不可欠だと考えています。 このプロジェクトでは、エリア内の競合他社の戦略と差別化を図りながら建売住宅の設備のスペックや間取りだけに頼るのではなく、計画エリアの魅力も一緒に伝えれるようなエリアマーケティングをおこない、ユーザーのニーズに対応する提案をすることができました。 また、将来的に企業が自社で客付をし、異なるエリアに展開できるような試金石を作ることに繋がる提案をしました。